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お手入れの行き届いた黒いコードバンのランドセル
昨年ご家族で工房におみえになったのは、ご両親と、来年成人式を迎える息子さん、そしておばあちゃまの4名でした。
お持ちになった黒い本革のランドセルは、男の子が6年間使ったとは思えないほど、傷もなくとても良い状態でしたので、「すごくきれいですね。とても大切に使ってらしたんでしょうね。」と申し上げたところ、ランドセルを買ってあげられたおばあちゃまが、「はい。雨の日には帰ってきたら私がすぐに水気をふき取って手入れをしてました。」と懐かしそうに笑っておっしゃいました。
なるほど、そのランドセルは、希少な馬の臀部から採取された、最高峰のレザーであるコードバンのランドセルで、こまめにお手入れをすることで、傷も付かず、光沢が出てとてもつやのある状態を保っていたのです。ご両親にとっては一人息子になられるお孫さんが、きっとかわいくてしかたなかったんでしょうね。想像しただけで、とても微笑ましい気持ちになりました。
それほどおばあちゃまが大切にお手入れされてきたランドセルを、このままにしておくのはもったいないということで、息子さんご本人が、これから先大人になっても使えるようなものにリメイクできないでしょうかと、ご両親が息子さんとおばあちゃまを伴って工房に来られたということでした。
成人のお祝いにランドセルをリメイクした本革のお財布を
まずは息子さんご本人に、何か作ってほしいものがあるかを尋ねてみました。まだ10代の学生である息子さんは、それほど革製品に興味がある感じではなく、あまりわかんないし、別に何でもいいけど~とそっけない返答でした。
それならば!と、がぜん積極的に店内の商品を見定めながら、あれは?こんなのは?と提案をし始めたお母様とおばあちゃま。今はまだいらないかもしれないけど、せっかく作るんだったら長財布がいいんじゃない?!。
それに対して、別に、長財布でもいいよ。と息子さん。
本人さんは、シンプルなラウンドファスナーの長財布でいいとおっしゃいましたが、女性おふたりの目に留まったのは、ワイルドなコンチョ付きの長財布。
こっちがカッコいいんじゃない?! 絶対こっちがいいって! と、なかば強引に押し切られる形でコンチョ付きの長財布に決定しました。
盛り上がるお母様とおばあちゃま、仕方ないな~という感じではあるものの、素直に意見を受け入れる優しい息子さん、そしてその様子を、黙って笑顔で見守るお父様。ご家族の日常が垣間見える感じで、私たちもその微笑ましい様子をちょっとだけ楽しませていただきました。
デザインをどうするか、柄を入れるか入れないか、、入れるなら何色にするか等々も、もちろん全部女性おふたりの希望通りになりました(笑)
その他には、お父様と息子さんおそろいのBOX小銭入れを製作することになり、それぞれに合わせる革とステッチの色を、これは男性陣がご自分で選んで決定されました。
リメイクの完成
完成したのがこちらになります。
コンチョ付きの長財布は、外側をランドセルのコードバン、内側を黒の牛革で製作し、アクセントとして表に赤のデザイン柄を入れ、内側のカード入れにも赤を差し込みました。ステッチも若者らしく赤を使い、コンチョも比較的シンプルな鷲柄にしました。
BOX小銭入れは、お父様用は横マチに黒い革を使い、ステッチをターコイズブルーにして、落ち着いた中にもカッコいい感じを出しました。息子さん用は、横マチに長財布と同じ赤い革を使い、ステッチも赤にして若さを出しました。
ホックもそれぞれに、大人っぽさと若さを感じられるものを付けています。
ランドセルの被せの大部分を長財布に使ったため、小銭入れはランドセルのサイドの部分を使用しました。その為元々縫い目があって穴が残っている状態でしたので、そこもすべて黒のステッチを入れてアクセントにしました。
6年間大切にお手入れしながら使い込まれたコードバンのランドセルは、リメイクとは思えないほど光沢のある素敵なお財布に生まれ変わりました。
ご両親とおばあちゃまにも大変喜んでいただき、来年の成人式のお祝いとして渡しますということでした。
ご家族の想いと愛のこもったプレゼント
愛がいっぱい詰まった素敵なプレゼントを、今年受け取られた息子さんの感想がとても気になるところではありますが、これまで愛情を注いでお育てになってきたことや、これからも温かく見守ってくださるご両親とおばあちゃまの想いを受け、きっと素直にありがとうと感謝されたことだと思います。
これからは、ご自分の手でお手入れをして、その愛を感じながら末永く大切にご愛用いただけることを願っております。
今回も素敵な出会いに感謝いたします。